数日振りに帰宅したニャンを見たら
「目の下が腫れています。」と
来院された15才のチャトラの男の仔。
診ると左眼が半分しか開いておらず
眼の下部から頬にかけ腫れており、
軽く圧すると左眼より血の混じった
クリーム状の膿汁が排出された。
また左側の鼻腔からも同様の
膿汁が少量ながら排出された。
口を開け左側の上顎臼歯を診てみると
歯石の付着と歯肉が赤く腫れていたが
動揺(ぐらつき)は認められなかったが
上記の病態から左側上顎臼歯の
歯根部の膿瘍の可能性が高いと思われた。
この仔は家でフードを食べる以外は
野外にいることが多いため
一般的な血液検査の他に
エイズウイルスと猫白血病ウイルスの
検査も実施した。
すると腎臓の数値が高値であった。
正常値の約3倍。
中等度の貧血も認められ、慢性腎不全
が示唆された。
また心配していたエイズウイルスが
陽性であった。
飼い主様に上記の結果をお伝えし、
治療の優先順位として、まずは
腎不全に対する治療と左頬部の化膿部
に対して内科的治療を行い、治療経過を
みながら全身麻酔による歯科治療を
検討していく方向で治療していく方針に決まった。
治療開始して数日後、抗生物質により
徐々に膿の量は減少していった。
また輸液等により腎臓の数値もやや
下がっていった。
それでも正常値の2倍以上であったが。
治療開始から約2週間経過した。
食餌量は通常量の80〜90%は
食べられるようになった。
頬の膿もほぼ消失し、腫れもほとんど
認められないレベルにまで改善した。
そろそろ次の段階を考える時期に来ていた。
2つの選択肢があった。
内科的治療で落ち着いているので
リスクを伴う歯科処置は行わないで
退院を考える。
もう一つは、リスクを承知で麻酔をかけ
歯科処置(膿瘍の原因である臼歯の抜歯)
を施す、根本治療を行う。
ただし全身麻酔による腎臓機能の悪化や
麻酔により一時的に免疫力が低下し、
エイズウイルスが暴れてしまう可能性も
考えられた。
また抜歯後の治癒過程も心配された。
飼い主様はかなり悩まれた結果
リスクを伴う後者を選択された。
オペを行うこととなったからには
少しでも短時間で終わるよう
こちらも気合を入れた。
腎機能低下状態での全身麻酔を
慎重にかけ、いつも以上に手早く
目的の上顎臼歯の抜歯を行った。
歯根部にはチーズ様の膿が付着していた。
抜歯後、素早く麻酔を切りオペを終了した。
心配の一つであった麻酔からの覚醒は
やはり時間を要した。
【オペ後の顔】
翌日、比較的元気様な顔つきであった。
缶詰を少し与えると、痛いながらも
食欲が勝ったのか、予想以上の食欲であった。
現在術後数週間経過するが、抜歯後の
状態や腎機能、貧血、エイズウイルスの
影響は、当初の予想より落ち着いている。
今後も注意深く、見守っていきたい。
15歳という年齢、腎不全、貧血、エイズ
ウイルス陽性と心配な点が多くありました。
麻酔をきっかけに、エイズが暴れだし
発熱が続くことや、腎機能の更なる低下や
膿の再発など厳しい状況も考えられましたが
今のところ比較的良好な経過をたどっております。
ご自分の家族だとしたら、どのような選択を
されるでしょう。
今回は積極的な選択をされたケースを
ご紹介しました。
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