「一昨日の夜中に、毛糸を飲んでしまった」と
１才になるニャンさん（♂）が来院された。
昨日嘔吐した際、吐物に毛糸が混じっていた
ものの、元気な様子だったという。
今日は元気もなく、胃液様の液体を嘔吐した。
食餌もチュールを少し食べたのみとのこと。
診察中、１才らしい元気さは感じられない。
腹部を触診したが、異物様のものや
痛がったりする素振りはみられなかった。
レントゲン検査を実施したが、胃や腸に
明らかな異物所見は認められない。
（仮に毛糸があったとしても、石や金属と違い
レントゲンに透過してしまい写る可能性は低い。）
稟告、経過、病態から毛糸が胃や腸に
残っている可能性があり、仮に閉塞が
起きていると腸が壊死してしまう可能性も
あるため、飼い主様に即日の試験開腹を
お勧めし、同意を得た。
常法通り全身麻酔をかけ、腹膜を開け
胃と腸を観察した。
紐や糸の異物は、時に腸をクシュクシュと
アコーディオンのように折りたたむ場合が
あるが、今回はそのような部位はなかった。
また腸が紫色に変色した部位もみられなかった。
胃から腸へと少しずつ慎重に丁寧に
触知していった。
腸を精査していくと、ある部分が塊状に
膨らんでいた。
触るとやや硬い。
異物の可能性が高い。
腸の内容物が腹腔内に漏れないよう
ガーゼで保護してから、その部位に
切開を加えた。
黒っぽい便の一部と共に、ひも状の
異物が見えた。
鉗子で摘み、ゆっくりと引き上げた。
抵抗なく、するすると伸びていく。
途中で引っかかる可能性も
頭に入れながら引き上げた。
スムーズにとれた。
見るともう一本確認できた。
それも鉗子で挟み、ゆっくりと
取り出すことができた。
そして切開部位を縫合した。
まだ他の部位に残っていないか
慎重に確認した後、閉腹し
オペを終了した。
【摘出した毛糸 1本は４０ｃｍ，もう1本は１２０ｃｍもあった】
術後、少しずつ元気を取り戻し、嘔吐症状は
1度もなく、食餌も徐々に増えていった。
【抜糸時には、すっかり元の元気と食欲を取り戻していた。】
この仔は以前、ご自宅で毛糸を飲み込もうとしているところを
発見され、口から出ていた毛糸を引っ張り出したという。
毛糸に対して、とても意識が強いようで、ご自宅でもかなり
気をつけて管理されていたそうであったが、今回は
自分で引き出しを開けてしまうなど、かなりの知能犯のようであった。
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