「食欲はあるのに、口が痛そうで
体重が減ってきたように思います。」
と来院された、何と「23才」のニャン(♀)さん。
診てみると、体は痩せていて、脱水感が強く
それでいて眼力は、しっかりしていた。
問題の痛がる口を診てみると、左上顎の臼歯に
黒く岩のような大きな歯石の塊が付着し
その部位の歯肉と歯石が当たる頬粘膜が赤く
ただれ、出血を伴う強い炎症が認められた。
見るからにとても痛そうで、その痛さゆえ
口を開けるのも、とても嫌がった。
この状態からすると、歯石除去レベルでなく
抜歯適応と思われた。
血液検査を実施したところ、肝臓と腎臓の
数値が中等度上昇していたが、
麻酔をかけることが出来ないほど高値
ではなかった。
上記の所見を飼い主様に説明した。
ただ23才という年齢を考慮すると、
数字には表れないリスクもあることも
お話した。
この年齢で、麻酔をかけて歯科治療を
受けさせるかどうか、家族で相談したい
とのことであった。
その後連絡があった。
このまま痛い思いをしながら、食べる
ことができず、やせ細ってしまうのなら、
リスクを承知の上で、思い切って麻酔をかけ
歯科処置をお願いしたいとのことであった。
2日後、麻酔をかけることとなった。
2.3kgという痩せた体に、全身麻酔薬を
静脈注射で導入し、気管チューブを挿管後、
吸入麻酔を開始した。
呼吸の状態も、心電図も安定していた。
開口器を犬歯にかけ、問題の左側上顎の
前臼歯(歯石の塊)を触知すると、
ある程度の動揺(ぐらつき)を感じた。
頬粘膜は最初に見た通り、歯石の影響により、
赤く潰瘍様にえぐれ、出血も認められた。
【歯石の塊はとげとげした岩石のようで、歯肉や
粘膜に対して、強い痛みの原因となっていた。】
歯石と歯肉の隙間から、ゆっくりエレベータ―鉗子を
入れ、歯の周囲の靭帯を剥離していくと、動揺が
大きくなり、鉗子をさらにすすめていくと、
数分後、抜歯することができた。
上下左右の犬歯は、動揺もなくしっかりしており、
歯石除去を実施した。
そして麻酔をきり、オペを終了した。
麻酔中、呼吸も心電図も気になるような変化がなく
23才とは思えない安定感であった。
また覚醒も通常より少し時間はかかったものの
大きなことなく、醒めてくれた。
今回麻酔をかけて歯科処置をするかどうか
とても迷われたケースだったと思います。
食べられないまま衰弱していく姿をみるのは
忍びないと思うと話されておりました。
私自身23才の仔に麻酔をかけたのは
初めてのことでしたが、何とか頑張ってくれました。
今回の試練を乗り越えてくれたのだから、
これから1年でも2年でも、さらに長生きして欲しい
と願います。
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