「食が細いです。」
「多頭飼なのではっきりと判りませんが
便も出ていないようです。」
と来院された推定15才の三毛さん。
体重は10ヶ月前より400g痩せており
顔つきも悪い。
腹部を触診すると、張っている。
ガスや腹水の貯留の可能性がある。
血液、レントゲン、エコーなどの検査を実施。
やはり腹部全域に腹水が貯留し、腸管内に
ガス貯留の所見も認められた。
これだけ腹水を貯留していれば、消化管の
動きも低下するであろう。
飼い主様に説明後、腹水抜去を始めた。
約200mlの赤桃色の腹水が抜けた。
抜去後再度触診すると、上腹部に
約6cm大のしこりを触知した。
治療について家族で相談したいと
一旦帰宅された。
2日後来院。
「お刺身を少し食べたが、やはり便が出ていない」
という。
腹水はまた貯留し始めており、しこりの大きさは
触診上は増減を認めなかったが、食欲の低下と
元気消失の状態は続いていた。
しこりは異物等の可能性も否定できないが
何らかの腫瘍の可能性が高いと思われた。
食欲低下や元気消失、体重減少、腹水貯留
などから、病態がかなり進行しているように
思われた。
2日間入院治療を施してみたが、良化傾向は
認められず、飼い主様と相談の結果、年齢や
病態のリスクを承知の上、思い切って
試験開腹をすることとなった。
オペ前に再度貯留した腹水を抜去後
慎重に麻酔をかけ、オペを始めた。
ガーゼで吸い取る。
上腹部を精査していくと、しこりが
顔を出した。
しこりの形はほぼ円形だが、正常組織との境界が
はっきりしない。
さらによく見ると、しこりの辺縁に脾臓が癒着し、
膵臓も、しこりに巻き込まれるように認められた。
そして腸は、腸管同士がコイル状に癒着し
一つの塊状になっていた。
癒着が緩ければと、離そうと試みたが
強固にがっちりと癒着していた。
また腸や膀胱の漿膜面を始め、腸管膜、
脂肪組織などにも直径2~8mm大、薄黄色の
柔らかいしこりが多数認められた。
腹膜にも膜全体をほぼ覆うように形成されていた。
臨床的には腹腔内に癌が播種された
(ばらまかれている)状態と思われた。
確定診断をするために、しこりの部分切除を行い
閉腹しオペを終了した。
腸管の著しい癒着により、腸としての機能は失われ
食べたものが便となって出ない原因ははっきりした。
と同時に、がんの播種の可能性が高く、残念ながら
この仔の余命は、数日の可能性が高いと説明した。
この状況においては疼痛や苦しい状態を軽減し、
飼い主様と共に過ごす時間を優先することとした。
それから4日後、飼い主様宅で眠るように旅立った。
その後の病理検査において、しこりは腺癌であった。
また腹腔内には腫瘍が播種しているとの報告であった。
試験回復により、結果的にほとんどどうすることもできない
極めて厳しい状況であることがはっきりしました。
ここに至るまで、ほとんどはっきりとした臨床症状を
示していなかったというレアケースと思います。
心よりご冥福をお祈り致します
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