しこりがあると間もなく14才になる
M.ダックスの男の仔が来院された。
診ると右の顎のあたりに丸いしこりがあった。
計測すると、直径約3cmX1.8cm。
痛みや痒みはないという。
年齢も高齢なので、このまま様子をみたい
とのことであった。
それから1ヶ月後、来院された。
しこりは4.5cmx3.5cmにまで増大していた。
相変わらず食欲も元気も変わりなく、
しこりを気にする様子もないとのことであったが
増大するスピードがあまりにも早いので
切除を含め、検討していただくようお話した。
それから3週間が経過した。
「さらに大きくなっています。」と再来院された。
直径約6cmx4.5cm。
明らかに増大速度が速すぎる。
相変わらず日常生活は何ら支障がない
とのことであったが、胸部のレントゲン撮影を
実施した。
肺には転移を疑う所見は認められなかった。
麻酔に対するリスク(14才という年齢や
しこりがかなり大きいため、切除に長時間を要し、
その分麻酔時間が長くなるなど)が大変心配されたが、
このままのスピードで増大し続ければ
切除が不可能になってしまう可能性があることも
説明し、飼い主様と相談のうえ
思い切って切除することとなった。
細心の注意を払いながら、麻酔薬を
静脈から投与し、気管チューブを挿管して
吸入麻酔薬で維持しながらオペを開始した。
しこりの底部の皮膚をメスで切皮すると、
赤い丸い塊の一部が見えてきた。
しこりは結合組織に包まれるように
形成されていた。
このような切除の場合、経験的に
見えづらい部分の血管を切ってしまう
危険があるので、なるべくメスなどで
切らずに、剥がせる部分は剥がしながら
少しずつしこりと正常部位の境界を
分離していった。
出血は、じわじわ程度であった。
さらに切除を続けていく。
すると6mm程の血管がしこりに
巻き込まれるように走っていた。
この血管を傷つけたら、相当出血するであろう。
恐怖心を感じた。
しかし、この血管を分けないとしこりの
切除は難しい。
覚悟を決めて、血管の分離に取りかかった。
しこりとの境界部をゆっくりと分けていく。
慎重に、慎重に・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
一呼吸おいてから
再びしこりの切除にとりかかった。
以降、太い血管は見当たらず
何とか何とか、無事しこりの切除が完了した。
切除後にぽっかり空いた空間に
皮下組織を寄せ、皮膚を少しづつ
縫い合わせていく。
切皮は右耳の下から、下顎の正中
あたりまでに達していた。
長い縫合になるので、片側の皮膚が
余ったり、つれたりしないよう、
左右の皮膚と皮膚がうまく合うよう
慎重に考えながら縫合した。
そしてオペは終了した。
とてもシビアなオペでした。
病理検査の結果「紡錘形細胞肉腫」という
悪性腫瘍でした。切除部位は取り残しなく
血管やリンパ管にも腫瘍細胞はみられない
との報告でした。
術後は、とにかくお散歩に行きたがり、
術前に比べ、より活動的になったそうです。
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